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東京高等裁判所 昭和50年(行ケ)2号 判決

本願発明の要旨及び引用例の記載内容が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがなく、本願発明と引用例の方法との対比において審決認定の相違点が存することは、原告の争わないところである。

成立に争いのない甲第二号証の二(本願発明の明細書)によれば、本願発明は、化学反応及びそれから生じる生成物の性質を制御する方法に関するものであつて、特に触媒物質を溶かし込んでいる液体を、高圧化学反応系に実質的に均一に導入することによつて、反応温度の変化を最小にし、反応生成物の化学的物理的性質を一層均一に制御する液体導入法に関するものであり、その主たる目的は、高圧エチレン重合帯への反応開始剤溶液の射出を実質的に均一に制御する方法を提供することにあるものと認められる。

そこでまず、審決は原告主張の相違点を看過したか否かについて検討する。

前記本願発明の要旨によれば、本願発明の反応開始剤溶液はその制御された容量がエチレン重合反応帯に対して連続的に注入されるものであり、かつ反応開始剤溶液に対して加えられ維持される圧力が反応器中の最大圧力より七〇Kg/cm2ないし四九〇Kg/cm2(一、〇〇〇PSIないし七、〇〇〇PSI)だけ大きいものとされていることが明らかであるが。反応開始剤溶液をエチレン重合反応帯に注入するに当り、「予め原料のエチレンと混合することなくエチレン重合反応帯に直接に注入する」ことについては、本願発明の要旨からただちに読みとることはできず、また、本願発明の明細書及び補正書(甲第二号証の二及び成立に争いのない甲第五号証)によつて認められる本願発明の特許請求の範囲にもその旨の記載はないことが明らかである。

しかして、前掲甲第二号証の二によれば、本願発明の明細書には、本願発明の方法を実施するための装置を簡易化した図面である第1図(別紙図面参照)が添付されていて、その説明として、「第1図で(10)は反応開始剤溶液容器を示す。反応開始剤溶液はライン(11)によつて、増圧器(12)に送られ、ライン(13)を通り反応器にポンプ送りされる。……弁(20)はブロツク弁(二方弁)で、ライン(21)は圧縮器(示していない)から直接エチレンを導入するため備えられ、ライン(13)は一般に(22)で示される反応器へこのエチレンラインをつなぐ。」(第一〇頁一二行目ないし第一二頁一行目)と記載されていることが認められる。

右の記載及び第1図によれば、本願発明の明細書及び図面には、反応開始剤溶液を予めエチレンと混合してからエチレン重合反応帯に注入する方法が実施例として示されているものということができ、前述のように、本願発明の特許請求の範囲には反応開始剤溶液を「予め原料のエチレンと混合することなくエチレン重合反応帯に直接に注入する」との文言上の記載がないこととを併せ考えると、本願発明は、反応開始剤溶液を予めエチレンと混合してからエチレン重合反応帯に注入する場合を包含するものであると解するのが相当である。

原告が指摘する本願発明の明細書中の記載を検討するに、第六頁一八行目ないし二〇行目の記載によれば、反応帯へ触媒(反応開始剤)溶液を射出することが、第九頁一〇行目、一一行目の記載によれば、反応開始剤を液体で反応器に導入することが、それぞれ明らかになるだけであつて、これらの記載から、本願発明が反応開始剤溶液を予めエチレンと混合することなく、直接にエチレン重合反応帯に注入するものであると解することはできない。また、第一三頁二行目ないし一一行目の記載によれば、本願発明が反応開始剤を反応帯の長さにそつた複数の個所から反応帯へ注入する場合のあることが窺われるが、右の記載から、直ちに本願発明が反応開始剤溶液を予めエチレンと混合することなく、直接にエチレン重合反応帯へ注入するものに限定されると解することはできない。

そうであれば、他方において、引用例の方法が反応開始剤溶液を予めエチレンと混合してからエチレン重合反応帯へ注入するものであることが明らかであるから(成立に争いのない甲第六号証による)、本願発明と引用例の方法との対比において、審決には原告主張の1の相違点を看過した誤りはないというべきである。

しかして、本願発明においては、「反応開始剤溶液に対し、反応器中最大圧力より七〇Kg/cm2ないし四九〇Kg/cm2だけ大きい圧力を加え、かつ維持する」ことを要件としているが、これは反応帯と反応開始剤溶液に加えられる圧力差である。そして高圧下にあるエチレン重合反応帯中に反応開始剤溶液を注入しようとすれば、反応帯中の圧力より反応開始剤溶液に加えられる圧力の方が大きくなければ注入できないことは自明の理であり、圧力変動が生じる高圧のエチレン重合反応帯に反応開始剤溶液を実質的に均一に注入するという本願発明の目的は、前掲甲第二号証の二第七頁一二行目ないし第八頁一四行目の記載によれば、反応開始剤溶液を貯蔵容器から反応器へ導くパイプラインの途中に弁装置を設け、反応帯の圧力の変化あるいは温度の変化を検出しこれに応答して作動する制御装置により、右の弁装置を部分的に開閉することによつて達成されることが理解されることにかんがみると、圧力差を七〇Kg/cm2ないし四九〇Kg/cm2の範囲に定めること自体には特段の意味が認められないので、右の圧力差をどの程度にするかは、この発明の技術分野における通常の知識を有する者が任意に選択できる事項に属するものというべきである。「本願発明において、原料成分の少くとも一つに着目しその制御量を特定圧力条件下に連続的に送入している点に創意を要したものとは認められない。」とした審決の判断に誤りはない。

よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註その一〕 本願発明の要旨および審決理由の要点は左のとおりである。

本願発明の要旨

正規圧操作として最低五二五Kg/cm2(七、五〇〇PSI)の高圧に保持され、最少限三五Kg/cm2五〇〇PSI)の大きさの周期的な圧力変化を受け、反応温度が一〇七℃ないし三一六℃(二二五°Fないし六〇〇°F)に維持されるエチレン重合反応帯に対し、反応開始剤溶液の制御された容量を連続的に注入する高圧エチレン重合法において、反応開始剤溶液に対して加えられ維持される圧力が反応器中最大圧力より七〇Kg/cm2ないし四九〇Kg/cm2(一、〇〇〇PSIないし七、〇〇〇PSI)だけ大きいものであり、それによつて反応帯中の反応温度における温度変動を五・五℃ないし一一℃(一〇°Fないし二〇°F)以下に止めることを特徴とする前記の高圧エチレン重合法。

本件審決の理由の要点

本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

これに対し、本願発明の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である特公昭三六―六九三号特許公報(以下、「引用例」という。)には、「エチレンを、小口径の長い管を通つて、その管から出るポリエチレンと未反応エチレンとの最終反応混合物の生成に有効な反応条件の下において通過させる如き、高温度において正常固体のポリエチレンを製造するエチレン重合反応を行う方法において、流動する反応混合物に著明な脈流を、規則正しい時間間隔で、その脈流以外の原因から管内に生ずる圧力低下及び流速の不規則な変動を防止するに足るだけの周期と大きさとを持つ如く与えて確実に此の管に沿つて一定の規則正しい温度の波型を持つた長時間連続運転しうるようにすることを特徴とする方法。」について記載されており、この重合反応は圧力が少くとも五、〇〇〇PSI、温度が二〇〇℃以上で操作し、触媒には酸素のほか過酸化型又はアゾ型の触媒が使用できること、流動する反応混合物に著明な脈流を与えるのに反応管出口を瞬間的に広く開く手段以外に反応混合物を反応管入口に急速に圧入する手段も適用できること、及び著明な脈流を与えた場合には与えない場合に比べて圧力並びに温度変動が小さくなることが記載されている。

本願発明と引用例の方法とを対比すると、両者は、通常の操作だけでは圧力に大きな変動を生じこれに伴つて温度も大きな変動を生じる管型反応器内でのエチレンの高温高圧下の連続重合に際して、原料成分を反応系における圧力よりも高圧にして送入することによつて反応系の温度変動を制御するものである点で共通しており、その高圧下の原料成分の送入操作に関し、引用例の方法では、エチレンと反応開始剤との反応混合物を規則正しい時間間隔で反応系に著明な脈流を与えるよう送入しているのに対し、本願発明では、反応開始剤溶液の制御された容量を反応器中最大圧力よりも特定範囲の圧力だけ大きくして連続的に注入し、これによつて反応系の変動温度を特定範囲内に止めるものである点で相違している。

しかしながら、エチレンの管型反応器内での高圧連続重合に際して、エチレンと反応開始剤とはいずれも制御された量を連続して送入する必要のある原料成分であつて、これらの原料成分をどのような送入操作でどのような圧力下に送入するかはエチレンの連続重合を円滑に進行させる制御目的に応じて当業者が容易に選定できることであるから、本願発明において、原料成分の少くとも一つに着目しその制御量を特定圧力条件下に連続的に送入している点に創意を要したものとは認められない。そして、この送入操作によつて反応系の温度変動をどの程度の範囲内に止めえるかは実験的に容易に確認できることにすぎない。

したがつて、本願発明は、その出願前に当業者が引用例の記載に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第二九条第二項の規定により、特許を受けることができない。

〔編註その二〕 本件に関する図面は左のとおりである。

<省略>

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